ニホンカワウソ調査録

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対馬カワウソ調査

お久しぶりです。対馬にカワウソ調査に行ってきたので調査内容をまとめます。

佐護川中流域の大きな淵(カッパが住んでいると言われている)

 

最新の対馬のカワウソ動向

2ヶ月前(2023年12月中旬)に佐護川で2度カワウソが目撃されています。

目撃者談「上流から海の方に向かって目の前数メートルのところで頭を出した。潜る時に太い尻尾まで見えた。イタチやテンなんかよりもずっと大きくてびっくりした。潜って泳いで行く方向に気泡が出たが、その後頭は出さなかった。息が長いんだろう。」

目撃者は川沿いの集落に住む80代のおじいちゃんでカワウソがいるという話は昔から聞いて知っていたが、見たことはなかったとのこと。カワウソを見た時は変わった生き物を見たと思って誰にも話していなかったが、1週間程してテレビにカワウソが出てきたのを見て、自分が目撃した生き物がカワウソだと確信したそう。

2件目の目撃情報は上記の目撃日から1週間ほど前、川沿いの畑で作業をしていたおばあさんが見たものです。場所は上記の目撃地点の数十メートル上流の対岸です。

目撃者談「川の上流から海の方に泳いでいて目の前で頭を出した。護岸の淵に沿って泳いでいた。こちらは薮の間から見てたからカワウソはこちらに気づいていないようだった。」

カワウソ目撃地点の佐護川河口域

また、2022年11月と12月にも対馬の地元の方でヤマネコの保全活動やカワウソの調査をしている山村さんが井口浜でカワウソの足跡を発見しています。

 

佐護川と井口浜

佐護川の河口である佐護湾から北に岬を回ったところに井口浜があります。佐護川河口から井口浜まで直線距離では約2.3キロ、岬を回っても3kmほどです。

佐護川と井口浜の地理

佐護地域では2017年に山村さんが自動カメラでカワウソの映像を撮影してから現在(2024年2月現在)まで7年以上継続してカワウソの目撃やフン、足跡が見つかっています。

佐護川と佐護湾の海岸線を中心にカワウソが継続的に生息していることは確実です。野生のカワウソの平均寿命が5年ほどと仮定すると、佐護地域にカワウソが複数頭生息しているもしくは繁殖していると考えても不思議ではありません。

 

今回の調査について

今回は3日間佐護地域に限定して痕跡調査、目視調査を行いました。

海岸線と川沿いを歩きフンや足跡を探し、朝夕は河口で移動するカワウソが水面に息継ぎをするタイミングを狙って川面を眺めていました。

2日目の早朝、井口浜でカワウソのフンを発見しました。状態から2-3日程経過しているようで、匂いはほとんどありませんでしたが、魚の鱗と骨をたくさん含みケバケバしている特徴はまさにカワウソのフンに違いないと思います。こちらは協力いただいている某国立大学にDNA鑑定に出しました。解析結果が出るまで少し時間がかかるそうです。

井口浜で見つけたカワウソのフン

足跡を探す調査は潮が引いている早朝に波打ち際に沿って見ていくのが良いと山村さんからアドバイスをいただいていました。調査期間は毎朝確認しましたが、波打ち際には足跡は見つかりませんでした。一方波打ち際から少し上がったところにはくっきりとした足跡がたくさんついていました。

こちらは鋭い爪のつき方と指が横に広がっていない点からテンの足跡だと思われますが、足長8cm、幅5cmほどとテンの足跡にしてはかなり大きいように思います。砂につく足跡は掘れて大きく残るようなのでそれが理由かもしれません。

カワウソは目撃できませんでしたが、海を見ていると入江でイルカがたくさん泳いでおり楽しませてくれました。

また、写真は撮れませんでしたが、佐護川に巨大なブリが登ってきて驚きました。

非常に楽しい収穫の多い調査となりました。

 

環境省の調査と見解

環境省によるカワウソの調査は昨年度で終了しており、動向を監視するフェーズ(予算がついていないので実質何もしない)となっています。

環境省から発表されている調査結果を簡単にまとめると以下の通りです。

2017年第一回調査(7/11-18, 8/28-9/2の14日間)

見つかったフンのDNA解析の結果、3個体を確認。(佐護、仁田、志和)

2018年(1/12)

山村さんが見つけて提供したフンのDNA解析の結果、追加で1個体を確認。(佐護)

2019年第二回調査(10/14-21, 11/16.17の10日間)

足跡を確認(佐護)

2022年第三回調査(12/7.9.12の3日間)

足跡を確認(大船越)

2023年第四回調査(2/21.27, 3/6の3日間)

何も確認されず

環境省の見解としては”対馬のカワウソは韓国から漂着した個体であり対馬島内で定着していないため保護の対象ではない”と結論づけています。

 

考えていること

僕は対馬に生息しているカワウソは韓国からたまたま漂着した個体ではなく、昔から対馬に生息する在来の個体だと考えています。

理由としては主に以下です。

  • 佐護地域だけとっても昭和初期から現在までカワウソの生息情報が継続して存在すること
  • 環境省の調査においても全島に少なくとも四個体以上生息が確認されており、近縁関係の個体も存在すること(繁殖している可能性がある)
  • 対馬には元々、大陸由来の動植物が多数生息しており、今回対馬で発見されたカワウソがユーラシアカワウソのDNAを持っていたとしてもそのことは対馬のカワウソが韓国から漂着した個体であると判断する根拠にはならないこと
  • 調査で十分な痕跡が見つけられなかったことは対馬に維持可能な個体数が存在しないと判断する根拠にはならないこと(高知のニホンカワウソの例に同じ)

環境省の調査においてなかなか十分な痕跡が見つからなかったので、”カワウソの定着(種の維持がされていること)は認められない”という結論に持っていきたくなる気持ちはカワウソ調査をする人間としては少し理解できます。

調査自体がハードで目撃情報はあれどもなかなか十分な痕跡が見つからないからです。

しかし既に発見されているフンのDNAや足跡など証明される事実として7年以上佐護地域にカワウソが継続的に生息していることがわかっています。

対馬北部の佐護地域に7年間継続してカワウソの生息が続いていることが”定着”でないならば、環境省はまず定着の定義をはっきりと示す必要があります。

また、環境省が使う”定着”という言葉は対馬にいるカワウソは全て韓国から漂着した個体であるという前提に立っています。この前提に立つ限り過去の生息情報(僕が直接地元の人に確認したものだけでも、対馬では昭和初期から現在までカワウソの生息情報が継続して存在する)は全て無視され存在しないものとして扱われます。結論ありきの調査ではせっかくの素晴らしい発見も/何も発見できなかったことも漂流説の結論を裏付ける方向に解釈されてしまうのです。

 

佐護川の河川改修

現在、佐護川では大規模な河川改修が行われています。ほんの2kmの範囲で大規模な浚渫が3箇所、河川拡幅と護岸工事が同時に進行しています。河川拡幅された地点では冬場には真水が枯れてしまうことが危惧されます。

浚渫が複数箇所同時に行われるので川の水は常に濁ったままとなる

河川拡幅と護岸工事

佐護川の河川改修計画に関しては洪水や氾濫による災害の歴史、対馬の産業構造、河川環境の保全の働きかけなどいくつかの側面があり、一方向から簡単に話せるものではないのですが現在進行している工事を見る限りでは河川生態系に全く配慮されておらず、人と自然環境の共生が考えられているとは到底思えません。

河川改修が進むことによってカワウソの住む場所がなくなるということだけではなく、河川生態系が乱れ、ツシマヤマネコやマナヅル、ナベヅル、ホタルといった佐護を象徴する生物種も失われていくかもしれません。また、河川に沿って点在する集落、人の営みと河川環境が完全に分断されてしまいます。

このまま佐護の固有の風景が失われ続けるなら、数十年後、百年後の佐護には何が残るのかと想像すると胸が痛くなります。

 

対馬でのカワウソ調査は引き続きやっていきます。なるべく早くDNA鑑定の結果もお知らせしますのでご期待ください!